連載:水が決める企業価値⑦ トヨタ自動車(上)

2016年1月から代表理事の奥田早希子が「環境新聞」で続けてきた連載「水が決める企業価値~水イノベイターの挑戦」を順次アップしています。今回は、2015年のCDPウォータープログラムでAリストに選ばれた3社の日本企業のうち、トヨタ自動車です。同じくAリストのローム(上)(下)アサヒグループホールディングスと合わせてぜひご一読ください。

長期・グローバル・地域」の視点で水と向き合う

これまで2015年のCDPウォータープログラムでAリストに選ばれた日本企業3社を順に紹介してきたが、今回はその最後となるトヨタ自動車。言わずと知れた高い環境ブランドを誇る同社だが、意外にも「水」に関しては“取り組み途上”と遠慮がちだ。その驕りのなさ故に、水循環との向き合い方はとても素直で「長期・グローバル・地域」という水を見つめる3つの視点を手に入れることができた。そして今、この3つの視点で水リスクへの対応を再構築しつつある。

いよいよ “長期的対策が必要”

トヨタ自動車は1993年以来、環境活動の5ヵ年計画である「トヨタ環境取組プラン」を策定してきた。2015年には16年度からの第6次プランを策定したが、これまでとは一風異なっていた。同時に長期ビジョン「トヨタ環境チャレンジ2050」も発表したのである。環境に関する長期ビジョンは、同社として初の試みだった。

第6次プランと長期ビジョンの策定に取り組んだ環境部の山戸昌子企画室室長は、長期的視点の必要性をこう指摘する。

「5カ年計画をまとめる最中に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)から、地球の壊滅的な被害を回避するためには、CO2の排出について実質的にゼロを目指す必要があるとの報告書が出されました。COP21の参加国の間でもこれが共通の認識になったと思います。では当社としてCO2をゼロにするにはどうしたらいいのか。これまでとは大きく考え方、行動を変えなければならないのではないか。トヨタ単独では無理ではないか。そうしたことは以前から理解はしていましたが、いよいよ本当に“長期的対策が必要だ”と感じました。5年先のことだけを考えていては、環境対応が追い付きません。歩むべき方向を示し、関係会社の皆様にも協力していただかないと実現できないと考えました」

長期的視野からグローバルに

CO2をきっかけに手に入れた長期的視点が、「水」の考え方にも一石を投じることになる。

「水についても、気候変動の影響を大きく受けることから、長期目線での対策が必要であることを再認識しました。これまでも水のリスクマップを作って取り組んでいたつもりでしたが、長期目線で見直していくことが重要です。また、水はCO2と違って地域性が強い問題です。日本ではリスクと思っていなかったことが、海外では大きなリスクになることもあります。省エネ技術については “日本で開発して海外展開”という日本発のスキームでしたが、水に関しては、各地域の取り組みをグローバルに収集して、参考になるものをグローバルに適用していく必要があります」(山戸室長。以下同様)

水社会を共有する

議論の末、長期ビジョンを構成する6つのチャレンジのうちの一角を「水」が占めることとなった(図)。しかし、最初から経営者層を頷かせることができたわけではなかったようだ。


トヨタ環境チャレンジ2050の概念図。水はチャレンジ4「水循環インパクト最小化チャレンジ」

役員や工場長らで構成される生産環境委員会でチャレンジの素案を説明した際「水については意外感を持って受け止められた」という。「使用する水を減らす、使った水はきれいにして還す。今まではここで終わっていました」

しかし、今回はここで終わらせなかった。CDPのプログラムのように社会的要請が強まっているという事実は、説得を強く後押しした。そうしたグローバルな動きの一方、地域の視点も強調した。

「以前、ある小学生が当社の工場の上流より下流の川の水質がきれいだという自由研究を発表して、とてもうれしかったことがありました。規制への対応は必須であり、いわば『一丁目一番地』の問題です。私たちが規制で求められる以上に地域への影響に配慮するのは、地域とのつながりを社員が大切にしているからです。社員の根底に、水社会を共有する地域の一員としての認識があります」

水が環境ブランドを育てる

水は地域の人にも身近で、見ることも触れることもできる。だからこそ、企業の水に対する振る舞いはファン作りにつながりやすい半面、批判も生みやすい。

「プリウスのように製品ごとの環境イメージも大切ですが、一方で、トヨタとしての環境ブランドが環境車の売れ行きに影響するかもしれません。より身近な地域の方々に水を通じてグループ会社、関係会社を含めたオールトヨタを信頼していただくことは、間接的に環境ブランドを高めることになると信じています」

もともと地域との距離が近い工場長は、日頃から「地域に迷惑をかけずに安定操業する」ことを大切にしており、その思いもまた経営層の理解を促した。

現在は「長期・グローバル・地域」の3つの視点で、水リスクマップの再構築など水への取り組みの見直しを進めている。次回、その概要と今後の展開を見ていく。

「環境新聞」( 平成28年4月20日号 )に投稿した原稿をご厚意により転載させていただいています

※記事PDF 「水が決める企業価値07」

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