連載:水が決める企業価値⑤ ローム(下)

2016年1月から代表理事の奥田早希子が環境新聞」で「水が決める企業価値~水イノベイターの挑戦」と題して連載を続けています。第4回目からは、2015年のCDPウォータープログラムでAリストに選ばれた3社の日本企業の取り組みを順番に見ていきます。今回は半導体メーカーのロームの(下)です。(上)と合わせてぜひご一読ください。

サプライチェーンを途切れさせない

半導体メーカーのロームは、水リスクを「水不足(渇水)」と「水過多(洪水)」という両極端な水の二面性で捉える。前回の水不足への対応に続き、今回は水過多に対する取り組みを見ていく。

洪水でタイの拠点が操業停止に

2011年10月、タイで発生した大規模な洪水に、同社の拠点も飲み込まれた。幸い人的被害はなかったものの、生産設備が水没して操業停止を余儀なくされた。11月中旬から一部生産を再開したが、通常に戻るまでに2カ月以上を要した。

しかし、自社のことより辛かったのは、サプライチェーンの糸を途切れさせたことだろう。

「多くのお客様に、多大なご迷惑をおかけしてしまいました。なかでも自動車メーカーへの影響が、一番大きかったと思います。被災後に主要な取引先のメーカーの方が当社に集まり、当社の担当者と延々と復旧策を協議していました。みんなで協力して対応を続けた結果、一番早く復旧することができました。当時は大変でしたが、逆に強固な協力関係を築けたように感じます」。環境管理室の土井眞人室長は当時をこう振り返る。

あらゆるリスクに向き合う

自動車のように完成までに必要な部品・部材が多くなればなるほど、関わる企業も多くなり、サプライチェーンは長く、複雑になる。同社はその上流寄りに位置するだけに、影響を及ぼす範囲は広い。

地震大国日本で災害対策と問われれば、真っ先に耐震化が頭に浮かぶ。同社もそうだった。しかし、タイでの経験を機に洪水対策にも力を入れるようになった。

洪水リスクの高い国内外の拠点では、建物1階部分を地上3mまで嵩上げし、嵩上げした地上部分には倉庫、駐輪場を設け、生産設備・付帯設備類は建物1階部分に設置する設計とした。「洪水を経験したからこそ、洪水により発生するリスクが明確で、それによってリスク回避策も明確になりました」(土井室長。以下同)。

水リサイクルなど節水の取り組みを「特別なことはしていない」と説明したのと同じく、洪水対策にしても手間はかかるだろうが、ハイテクを駆使して特別なことをしているようには見えない。しかし、それで効果は得られる。水循環システム研究の第一人者である東京大学生産技術研究所の沖大幹教授も「防災に特別な秘訣はありません。電源施設の防水性を確保するといったセオリーどおりの備えを万全にすることが大事」と指摘している。

安価で特別なハイテク防災技術があればあったに越したことはないのかもしれないが、普通のことでも積み重ねればリスク回避につなげられる。経験に基づく実直かつ確実なリスクマネジメントは、CDPウォータープログラム(CDP―W)でAリストに選ばれる大きな要素となったと推察される。

政情不安や伝染病などについても、国内外の全生産拠点でリスク診断を実施した。“あらゆるリスクに向き合う”という姿勢そのものも、高評価につながったことは間違いないだろう。

海外投資家から問い合わせも

同社がCDP―Wに回答したきっかけは、国内外を合わせて10社ほどのサプライチェーン下流側の企業から要請があったからだという。「今までの取り組みを系統立てて整理でき、やれているところ、足りないところを認識できると考え、回答することにしました」

「水について特徴的な取り組みをしてきたわけではない当社がCDP―WのAリストに選ばれたことのインパクトは大きかったようで、海外の機関投資家や大学の先生などから問い合わせを受けています」。

世の中のために、そして、サプライチェーンを途切れさせないために「まだまだやれることはあります」。同社は早くも次を見据えている。

 

「環境新聞」( 平成28年3月16日号 )に投稿した原稿をご厚意により転載させていただいています

※記事PDF 「水が決める企業価値05」

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