連載:水が決める企業価値⑥ アサヒグループHD

2016年1月から代表理事の奥田早希子が「環境新聞」で続けてきた連載「水が決める企業価値~水イノベイターの挑戦」を順次アップしています。今回は、2015年のCDPウォータープログラムでAリストに選ばれた3社の日本企業のうち、アサヒグループホールディングスです。同じくAリストのローム(上)(下)と合わせてぜひご一読ください。

「水」で深化する調達とCSR

2015年のCDPウォータープログラムでAリストに選ばれたアサヒグループホールディングスは、水を原料として利用する飲料メーカーとして常に「水」の視点で事業活動を律してきた。健全な水循環とは何か。持続可能な社会とは何か。企業に何ができるのか。問い掛け続けた結果、原料の安定調達とCSRの融合に行きつき、それぞれの活動が深化しはじめている。

生産者との関係を強化しなければならない

調達とCSRが深く関連しあうことを認識するきっかけとなったのは、グループ各社の調達担当の責任者を集めて2014年に行ったダイアログ(対話)だった。テーマは、調達活動における持続性、社会的責任とは何か。調達先企業も交えた議論の中で、参加者全員が一致した意見があった。

“持続的に調達を安定させるには、調達の川上である生産者との関係をもっと強化していかなければならない”

水は、生産者とつながる最も大切な要素とされた。飲料メーカーの使命として、とりわけ水問題には真摯に向き合ってきた同社だが「サプライチェーン上流側の農業と水との関係性については、必ずしもしっかりと意識できていませんでした」。ダイアログを通じて自社に足りないところをそう認識したCSR部門セネラルマネジャーの佐田朋彦氏は、そこから「一歩を踏み出し」た。

 調達先選定に水リスクも考慮

ビールなら麦芽やホップ、飲料ならコーヒー豆や果汁など、同社の製品は世界各国で生産される多くの農産物に支えられている。より品質の良いものを適正な価格で、必要な時期に入荷してもらえるかどうか。それが調達先を選ぶ際のこれまでの基準だった。

しかし、農業には大量の水が必要とされる。そのことは、同社のサプライチェーン全体において、工場での水使用料はわずか数%に過ぎず、ほとんどが農園で使われているというデータからも明らかだ。温暖化などの影響で、渇水や洪水など水リスクが世界各国で高まってもいる。

そこで同社は、調達先地域の水の希少性や、主要な7製品の原料を生産する海外59地域でのウォーターフットプリント(※)等の調査を行った。幸いにも甚大な水リスクにさらされている地域はなかったが、調達先を選ぶ基準に水リスクを追加し、現地ヒアリングの際には渇水や洪水の傾向についても調査するようになった。

「調達とCSRは関係がないように思えますが、そうではありません。広く社会との接点を考え、構築していくことがCSRの役割であり、それは事業活動そのものだと考えています」

農業も水も、その地域の生活や社会の成り立ちと密接に関係している。同社は調達を通じて持続的な農業を志向することで、同時に健全な水循環、そして持続可能な社会をも求め続けている。

 水リスクに対する答えを持てる企業

これまでの同社の水に関する取り組みは、3段階に分けられる。1段階目は自社工場の排水処理や水リサイクル、節水など。それから社会的要請もあって、水源地の森林保全など環境活動にも力を入れるようになった。そして、今、原料生産の農業にまで目配りする第3段階に入り、視野が世界に広がった。

「ここ2、3年、海外の機関投資家からの水リスクに関する問い合わせが増えてきました。当初は1段階目のことを答えていたのですが、彼らにとってそれは“やって当たり前”のことなんですね。世界的な水リスクをどう考えているのか。これからの企業は、その答えを持っていなければなりません」

安定調達とCSRの融合によって、同社はその答えに近づこうとしている。「まだ緒に就いたばかり」ではあるが、やがて事業活動に、そして社会に前向きなインパクトを与えるはずである。

※ウォーターフットプリント:水利用に関する潜在的な環境影響を、原材料の栽培・生産、製造・加工、輸送・流通、消費、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で 定量的に評価する手法(環境省「ウォーターフットプリント算出事例集」より)。概ね食料や製品の生産のライフサイクル全体で直接的・間接的に使用された水の総量のこと。

「環境新聞」( 平成28年3月23日号 )に投稿した原稿をご厚意により転載させていただいています

※記事PDF 「水が決める企業価値06」

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