連載:水が決める企業価値 水イノベイターの挑戦②
2016年1月から代表理事の奥田早希子が「環境新聞」で「水が決める企業価値~水イノベイターの挑戦」と題して連載を続けています。第2回目は、企業の水に対するふるまいの変化をPPP(公民連携)の視点で考えてみました。ぜひご一読ください。
企業の社会性に投資家の目
国際NGOのCDPは2010年にウォータープログラムをスタートさせ、水に関する企業情報を年に一回、収集・開示している。こうした国際的な動きが企業活動を変化させ、水資源をめぐる企業と政府の関係にまで影響を及ぼしているように感じる。変化する企業の水に対するふるまいの意義を、公民連携(PPP)の視点で考えてみたい。
効率だけでは企業は失敗する
まずはPPPについて簡単に整理する。
水マネジメントにおける企業(市場)の役割は、水という資源を最も効率よく活用(分配)することである。しかし、市場主義が行き過ぎて企業利益のみが追及されると、例えば工場の排水処理コストがケチられて公共用水域の水質が汚染されるといった負の外部性をもたらす。これは市場の失敗と呼ばれ、排水規制などで失敗を是正する役割を国や地方自治体など政府が担う。
山間部のような非効率な地域に水をあまねく供給することも政府の役割であるが、安易に政府に依存しすぎると財政負担が増大し、政府も失敗する。市場にはその失敗を是正する役割もある。
市場と政府は交互に失敗と是正を繰り返す。天秤はその時代に大きな役割を担っている方に常に大きく傾ぎ、ふらふらと揺らいで安定することはない。
それを真ん中で安定させようというのがPPPである。政府の役割を企業と分担し、公共サービスを一緒に創造・提供するもので、PFIなどの手法が知られる。公共サービスの質と効率性の二兎を追うという意味では、政府には経営の視点が、企業にはパブリックな発想が求められる。
企業の失敗を投資家が是正
市場の失敗を是正するための政府による排水規制は、国内の企業活動には有効だ。しかし、国内だけで論じることは難しい。もしかしたら使用する資機材や原材料等の輸出国や生産国で、過剰な水利用や水質汚濁といった問題が起こっているかもしれないからだ。
そのことに早く気付けと警鐘を鳴らすのが、CDPウォータープログラムである。輸入を含むサプライチェーン全体における水マネジメント実態について、グローバル企業に対するアンケート結果を公表する。
同調査を支援するKPMGあずさサステナビリティの斎藤和彦代表取締役は「日本で初めて行われた昨年度の調査より、今年度のほうが丁寧に回答する企業が多くなった」と語る。「回答することで投資家の視点を知り、自己評価ができる」(斎藤氏)ということからすると、アンケートがチェックリストとなり、企業が水との付き合い方を見直す機運を作ったのであろう。
この場合、市場の失敗を是正したのは機関投資家であり、CDPである。それらは、「政府」「市場」とともにPPPのトライアングルを完成させる最後のステークホルダーである「地域」だ(図)。
通常であれば市場の失敗を是正するはずの政府は「政府・非営利・公式」な立場であり、各種規制は企業の義務となる。対して「非政府・非営利・非公式」な「地域」には強制力がない。しかし、同プログラムでは署名する617の機関投資家、運用資産総額63兆ドルの投資マネーが企業の水に対するふるまいを見つめている。そのプレッシャーが市場の失敗を是正する力を持ち始めたといえる。
企業にもパブリックマインド
同プロジェクト(地域)が負の外部性を減らす方向で市場の失敗を是正しようといる点は政府と共通するが、地域に正の外部性を提供できているか、洪水・渇水リスクに対応できているかといった社会性をも浮き彫りにしようとしている点は大きく異なる。
PPPトライアングルにおいて、企業(市場)は「非政府・営利・公式」な立場であるが、その役割を政府の領域にはみ出せと、パブリックマインドを持てと促しているようにも感じる。同プロジェクトの優良企業として格付けされたAリストの8社(日本企業はトヨタ自動車、アサヒホールディングス、ローム)はすでにはみ出していると言えるのかもしれない。これもPPPの一つの形態であり、そこで求められるパブリックな発想が企業評価を左右し始めている。
※「環境新聞」( 平成28年1月27日号 )に投稿した原稿をご厚意により転載させていただいています
※記事PDF 「水が決める企業価値02」