連載:水が決める企業価値 水イノベイターの挑戦③
2016年1月から代表理事の奥田早希子が「環境新聞」で「水が決める企業価値~水イノベイターの挑戦」と題して連載を続けています。第3回目は「トヨタショック」とまで騒がれた大手企業とサプライチェーンと水リスクの関係を考えました。ぜひご一読ください。
企業間取引でも「水」評価へ
前回までに、CDPウォータープログラム(以下、CDP―W)が集めた企業の水に対する考え方やふるまいに関するアンケート結果を、機関投資家が投資先を選定する際に考慮し始めたことを見てきた。その余波が、企業間取引にまで押し寄せようとしている。
大手企業が気にするサプライヤーの水
さざ波が立ったのは2014年のこと。その年、CDPの「サプライチェーン・プログラム」がウォータープログラムもカバーするようになったことがきっかけだった。それまでは工場などの自社サイトだけを評価すれば良かったのだが、サプライチェーン・プログラムはその範囲を取引先にまで拡大する。それに手を上げた企業の取引先は、たとえCDP―Wの対象にならない日本国内だけで事業展開するドメスティック企業であろうと、CDPから質問状が届き、回答を求められる。
日産自動車と花王は、いち早く動いた。次いで2015年にトヨタ自動車も参画。一部の取引先だけを対象としたものだったにもかかわらず、「トヨタショック」(日経エコロジー)として騒がれるほどの大波が起こった。
いずれ全取引先に、やがてすべての大手企業が企業間取引にCDP―Wを加味するのではないか、機関投資家と同じように企業価値を水で評価して取引先を選定するのではないかとの驚きと不安が広がったのだ(図)。
しかし、サプライチェーン・プログラムに参画するか否かは各社任せだ。実際のところ、CDPジャパン事務局によると、サプライヤーに対して水使用量などの報告を求めている日本企業は27%にとどまる。一見すると大きさの割に波が引くのは早く、日本企業はそれほど気にしなくて済んだかのように思えるが、実際はそうではない。
「日本は大丈夫」は思い込み
CDP―Wについて多くの企業の相談に乗ってきたみずほ情報総研環境ビジネス戦略チームの柴田昌彦シニアコンサルタントによると、とある日本企業のアジアサイトを評価する際、日本を対象から外していたところ、協働していた海外の調査協働していた海外の調査会社から含めるように要求されたことがあったという。日本では水リスクを軽減するための水インフラが充実しているが、そのことが反映されていない水リスクマップ(AQUEDUCT)で日本のほとんどは低~高リスクの土地だ。決して低くはない。それが日本の水リスクとして、海外企業には映る。
「日本は大丈夫というのは日本人だけの思い込み」と柴田氏は断じる。着実に「現実は動いている」(柴田氏。以下同)のだ。
避けて通ることこそリスク
柴田氏によると、数年前から水リスクに関する企業からの問い合わせが増え始め、2014年は片手で足りるほどだったが、15年には二桁まで一気に増えたという。それに合わせるように、以前から水に関心の高かった食品・飲料メーカーだけではなく、化学や機械などハード系のメーカーへと業種も拡大してきたそうだ。
「水リスクは見えにくいだけに、今は投資家や企業の不安が増大しすぎているように感じる。いずれ収束するかもしれない」が、水という評価軸が無くなることはないだろう。「CDP―Wがもたらしたムーブメントに乗り、まずは水リスクに向き合うこと、そしてリスクが認識できていなくても、できていないことを開示することが大事」。先述したように日本は水リスクが少ないように感じるが、水リスクは無いと断じて避けて通ることは、いずれ大きなリスクをもたらすことになりそうである。
※「環境新聞」( 平成28年2月10日号 )に投稿した原稿をご厚意により転載させていただいています
※記事PDF 「水が決める企業価値03」